西表島を含む沖縄県では長寿を祝う行事が数多く行われています。
長寿に対しては尊敬の意味と、とても縁起の良いものだという風潮が文化として根付いています。
12年に一度巡ってくる生まれ年の際には、毎回生年祝いとして家族や地域の人々から祝福されます。
この生年祝いを島では”トゥシビー”と呼びます。
特に長寿を祝うトゥシビーである、満60歳の還暦祝い、数えで73歳の古希のお祝い、数えで88歳の米寿のお祝い、などはとても大切に行われてきた文化があります。
現在では60歳というとまだまだ元気でこの先長いような時代になりましたが、昔は60歳まで生きる人は本当に少数だったはずです。
このトゥシビーの最高齢のお祝いが、数えで97歳になった時に行われる”カジマヤー”というイベントです。
カジマヤーとは風車の意味で、人間は97歳になると童心にかえり、再び風車のような子供のおもちゃで楽しく遊ぶようになると言い伝えられています。
これは一説では、現在のいわゆる認知症の症状を指していると考えられているようです。当然、当時は認知症という言葉はありませんので行う行為そのものが語源になったと思われています。
カジマヤーのお祝いは旧暦の9月7日に行われます。もちろんその年に数えで97歳を迎える方が存在しない場合は行われません。
実際長寿の国沖縄でも大変に珍しく貴重なことになっています。
お祝いの仕方はというと、かなり特徴があります。島では軽トラックや島に数少ないですが走っているオープンカーなどに、たくさんの風車や手作りの装飾品で飾り付けをします。
その華やかな車に、これまた綺麗に着飾ったご本人が乗り込みます。赤いちゃんちゃんことまでは言いませんが、赤色の派手な沖縄衣装を身にまとう姿も多々見られます。
同時に孫や近所の子供たちが乗り込み、より華やかさを演出する場合もあります。
そして集落全域をゆっくりパレードして進みます。沿道に集まった地域の方やたまたま居合わせ観光客などから祝福の拍手を浴びせられながら、手を振って応えていくのです。
小さいころ初めて乗り物に乗って楽しんだ子供のように、風で勢い良く回転する風車を持ちながら、しわくちゃの笑顔ではしゃぐ光景は、見る者全てをも楽しくさせます。
とても縁起のよいお祭りなので、長寿にあやかって健康で長生きできるような気分にもなり、本人だけではなく、多くの人たちや地域全体がとても待ちわびたイベントの一つになっています。
当然のことですが、何年かに一回、地域によっては何十年の間に一回行われるかどうかのお祝いですので、行われた際には地元の新聞の一面を飾ってとりあげられる程の大変珍しいことなのです。
島に根付く、97歳を迎えると人は童心、子供にかえり、また新たな人生がスタートされるといういい伝はとても夢があり、長寿を素直に心から祝福することのできるありがたい文化だと思います。
こんな素晴らしい心の文化は、この先消えることなく残して生きたいですね。